複合差別・貧困・教育

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インドの教育は、現在「10(初等・中等)+2(高等)+3(大学)」というシステムをとっており、日本のシステムと比較すると最初の初等・中等教育の10年のうち、5年生までが小学校、6年生から8年生までが中学校、残りの2年が高校と言えます。10年生の終わりには全国共通の卒業試験があり、この結果がその次の進路を決定する主要な要素となります。続く2年間(第二次高等教育、通常プラス2と呼ばれる)の教育は、インドのどの地域、学校でも英語で行われ、その終了時にも全国共通の卒業試験があります。この結果が大学入学や専攻選択、就職の際の選考基準ともなります。このシステムのもと、基本的に1年生(5・6歳)から5年生が義務教育の対象とされており、2009年の義務教育法制定以来、全ての子どもに対する義務教育は学費無償(昼食も無償で提供、ただし大抵は、制服やその他の必要物資、カリキュラム外活動等の費用などは自己負担)となりました。無償義務教育は公立学校(中央または地方政府運営)で提供されており、これに加え、様々な規模、費用水準をもった無数の私立学校が幼稚、初等、中等、高等、大学教育を提供しています。ちなみにインドの学年度は毎年6月に始まり、5月に終了します。

義務教育の全般的無償化を通し、インドの1年生の段階の就学率は、農村部・貧困層も含めかなり高くなり、少なくとも数字の上では、教育環境の進歩・改善ともとれる状況となりました。しかし、質的な面で言うと、特に公立学校の教育には、未だに多くの疑問・問題点が残っています。例えば、確かに1年生の段階での就学率は、被差別マイノリティや貧困層の子ども達も含め、高いものになりましたが、これらの子ども達の、入学後の中途退学の率は未だに高いままです。貧困と差別の連鎖の中で、子どもの将来よりも、むしろ現在の収入を優先する親も多く、少しでも労働力として動ける年代になった子ども達は、学校を中途退学し、働きに出されることも多くあります(女子の場合、嫁がされるという場合も)。労働可能な年代に至らず、まだ子育てに手のかかるうちは、子ども達を就学も昼食も無償で提供される公立学校に、むしろデイケアセンター代りとして通わせているというケースもあります。農村部には、読み書きができず、自身が教育とは縁遠い生活を送ってきた親たちも多く、子どもの教育の必要性や重要性についての理解も、そのようなことを考えたりすることすらも無い場合もあります。

更に、私立学校では様々な設備が整い、管理も行き届いていますが、公立学校では校舎が老朽化しているだけでなく、教室などが不十分で、外の野原に座り、建物の壁などを黒板代わりに使って授業が行われていることもあります。教員対生徒の比率も大きく異なり、私立学校では教員一人が平均30〜40人の生徒を受け持っているのに対し、公立学校では教員一人が少ない時でも約50人、時には100人近い生徒を受け持っていることもあります。また公立学校では一人の教員が複数の学年の生徒に対し、同時に授業をすることもあります。労働環境や給料の側面から、そもそも恒常的に公立学校の教員が不足しているうえ、教員が休みがちだったり、教員としての根本的なモラルや能力に欠けた人が教員となっていることなども問題になっています。

また、インドでは各州や地域ごとに多数の使用言語があり、英語はいくつかある公用語の一つです。そのため高等教育と大学教育においては一貫して英語での授業が行われ、多くの職種でも英語力が必須条件になっています。そのため、ほぼ全ての私立学校では幼稚・義務教育の段階から、英語で授業が行われています。しかし公立学校の授業は、10年生まで地域の使用言語のみのうえ、英語の授業もその他の授業も質が高くないのが現実で、卒業後の進路はかなり限られたものになっています。公立学校からの編入を受け付けていない私立学校もあります。このような背景から、少しでも経済的に余裕ができた場合、子ども達を幼稚部の段階から私立の学校に通わせる人々が増えています。さらに高等教育を提供する私立学校の中には、親・保護者の学歴も入学基準の一つにしているところもあります。結果、実際に公立学校に通っているのはダリットや先住民族の子ども達のみという地域も多くなってきています。

義務教育が無償化され、高等教育機関への進学・入学に際し、ダリットや先住民族の生徒のための留保枠が作られていても、英語力や質をともなった教育の不足のため、実質的に進学・入学できない、または進学・入学したとしても全て英語で行われる授業についていけず、結局はドロップアウトしてしまうというケースも少なくありません。

多くの問題の残った公立学校の教育状況ですが、改善しようとする政治的な意思や措置はほとんどなく、むしろこれもカーストに基づく差別・排除ではないのかという疑問すら浮かぶ状況になっています。